現在,人工衛星,航空機,UAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機),地上機器などのさまざまなプラットフォームにより目的に応じたデータの取得が可能となっている.データは太陽光,電磁波,レーザーなどを媒介して取得されるが,最も利用されることの多いレーザーを用いたLiDAR計測と電磁波を用いた合成開口レーダー衛星による地質学応用について紹介する.
1.まえがき
地質学への映像・画像技術の応用を考えるとき,植生被覆のほとんどない海外であれば航空写真のみからでも多くの情報を得ることができるが,厚い植生に被覆されている我が国では地形情報が何よりも重要となる.現在では,さまざまなプラットフォームにより目的に応じたデータの取得が可能となっており,人工衛星,航空機,UAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機),地上機器などを活用できる.
地質学への応用という点から技術的なトピックスを考える上でポイントとなるのは,以下の4点であろう.
(1)地質学では地表の点データをつなぎ合わせて空間的な広がりを持たせるために,地上でも水面下でも地表面の地形データが必須である.これには簡単にDTM(Digital Terrain Model:数値地形モデル)データを作れるようになったレーザーなどの技術は大変重要である.
(2)平成23年の東北地方太平洋沖地震による被災地のような南北500 km以上に及ぶ広域災害の状況把握や海洋上の孤島,また火山活動などにより航空機での対応が難しい場合や夜間の場合でも人工衛星により多くの情報を得ることができる.また,人工衛星ではさまざまな現象の推移などを継続的に追跡・監視することが可能である.
(3)直接アタックするには危険であったり,難しかったりするなどの斜面や対象物など限定的な範囲または用途であれば,無人航空機や地上機器からでも容易に対応できる.
(4)地質学応用としては,一度DTMなどのディジタルデータとして取得しておけば複数回の計測によって,地表面の変位を継続的に追跡し得る.
本稿では航空機によるレーザー計測(LiDAR: Light Detection and Ranging)と,人工衛星,特に合成開口レーダー(SAR: Synthetic Aperture Radar)についての地質学への応用について解説する.また,資源探査に関する内容は除き,地質学応用という観点から我が国に非常に多い斜面変動,火山活動を題材に解説する.
2.LiDAR
2.1 LiDARとは
レーザー光を地表などに照射し,照射点までの距離を基にGPS,IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)を用いて,照射点の座標などのデータを得ることをLiDARシステムによる計測と呼び,ただ単にLiDARと略称することもある.欧米では1990年代に商用化された技術であるが,国土地理院によって標準仕様が制定されたのは2004年~2006年になってからである.レーザーによる計測機を搭載するのは人工衛星,航空機,自動車,地上固定型,UAVなどである.地上部に用いるレーザー光には近赤外線の波長700~1600 nm程度のものが使われ,河川や海などの水部にはグリーンレーザー(波長495~570 nm)が使われる.例えば,航空機からであれば,地表1 m2あたり数点以上照射できる機器能力があり,平らな地表であれば,おおよそ数10 cm程度の円形に近い形の大きさでレーザーが連続的に照射される.レーザーの最大照射回数は200~500 kHzに及ぶが,もちろん安全性が確保されるレーザーの照射強度である.
2.2 LiDARによるセンシングの特徴
図1 最新のレーザ計測によるデータ取得
図2 DSMとDTM
本節では,航空機によるLiDAR計測の特徴について説明する.最新の計測によって得られるデータは,図1のようにレーザーに照射されたポイントのデータすべてを取得できる.計測によって得られるデータは地表面といっても最上部であるので,地面ばかりでなく樹木やビルの上であったりする.LiDAR計測では,照射点の座標以外にIntensity(レーザーが照射点に反射して計測機に戻ってきたときの強さ)が得られる.この生の座標データをフィタリングという作業を通して地表面だけのデータにする.通常,この処理前のデータをDSM(Digital Surface Model),処理後のデータをDTM(Digital Terrain Model)あるいはDEM(Digital Elevation Model)という(図2).森林などを調べるにはDSMが必要であるが,地表面で起こっている変化などを調べるにはDTMが必要になる.多くのデータ解析で使用されるのはグリッド化されたデータであるが,現在国内で計測されているデータの多くは,0.5 mあるいは1.0 mにグリッド化されて発注元に納品されていることが多い.また,国土地理院がウェブ上で公開している基盤地図情報ではL i D A R データのグリッドサイズは5 . 0 mである.LiDAR計測による高さ精度は計測高度や器材によって異なるが,概ね15~30 cm程度である.
2.3 LiDARの運用実績
わが社では国土交通省,林野庁,都道府県などから多くの受注実績を有している.また,災害時に自社運用としてLiDAR計測を実施しており,その成果はウェブ上に公開されている(https://www.pasco.co.jp/disaster_info/).現在,わが社のLiDAR計測は地上部ばかりでなく,水部の計測(Airborne Laser Bathymetry)も実施している.
2.4 LiDARの地質学応用への事例
LiDARが地質学分野に大きく寄与しているのは,① 非常に細密な地形情報(DTM)が得られるようになったこと,② 計測技術やデータ処理技術の進歩によって大量のディジタルデータを瞬時に解析できるようになり,地質防災関係に大きく役立っていること,である.我が国でLiDARの地質学応用といった場合,一番多いのは,おそらく火山活動や地すべり・深層崩壊などの斜面変動を対象としたものや,地表面の地形解析を通して地質解析に援用されている場合にあると考えられる.また,我が国には海外のように植生のほとんどない広大な裸地がないので純粋な地質解析に使用されることはほとんどないと考えられる.
地表面の地形的な特徴を探るには,グリッド化されたLiDARデータをさまざまなフィルタ処理や演算によってエッジ検出やパターン認識を行う.実際のLiDARデータの処理画像を用いてその特性を以下に解説する.
図3は,新潟県と長野県との県境付近に位置する山地の大崩壊の痕跡であり,数万年前以降に起こったと想定される.Aの部分はかつて山の一部であったところが大きく崩壊し,お椀の底のような特徴的な地形を示している.このAの北東側(画像では崩壊地の上方)に示されるBのところは,この崩壊によって流下した土砂が堆積してできた平坦~なだらかなところで,現在はその多くは水田や畑となっている.Aの周囲に広く認められるCで示した斜面は浸食により谷が山を深く刻んでできたもので,非常に特徴的な斜面の浸食地形を呈している.図3では,青色系のところは谷,川,凹地などのまわりより低い土地を表現し,赤茶色系のところは尾根,台地の縁などの凸部を表現している.いずれの場合も色が濃いほど鋭い形状の尾根や谷を表している.また,図中に挿入されている線は10 m間隔の等高線である.
図4は静岡県川根本町大井川中流で,南アルプスの南端近くに位置する.図4の一番上のaは国土地理院が発行している1/25,000の地形図の一部で,それ以外はLiDAR計測によるデータを処理した3種の画像である.LiDAR計測による画像は処理の方法によって見え方(地形の特徴の抽出)が大きく変化することがよくわかる.地形を判読することは,エッジ検出が最も重要と言われる所以であることを理解していただけると思われる.
図3 サンプル画像1
図4 サンプル画像2
a:国土地理院地形図1/25,000「蕎麦粒山」を使用,b:凹凸の相対的な高さを利用したテクスチャ画像,c:陰影図,d:ウェーブレット変換による数値変換後の画像.
図5 サンプル画像2の一部拡大図
いずれもウェーブレット変換による数値変換後の画像で表示の仕方によって地表面から得られる情報量が異なり,それには表示に使う色も大きく関係している.
図5は図4の一部を拡大したもので,山地斜面の地表面に"しわしわ"が隠れている.このしわ模様は,波長±10 mで振幅1~2.5 mと波長20~30 mで振幅5~10 mの2種の凹凸から構成されている.このようなテクスチャは,重力により斜面が変形したことを示す痕跡であり,平成23年の紀伊半島大水害以降,LiDAR計測によって全国各地にあることが知られるようになった.図4,図5に記したウェーブレット変換とは,波の性質を利用した解析方法によって処理したものである.なお,図4のLiDAR計測は,"デジタル森林空間情報利用技術開発事業のうちデジタル空中写真撮影および航空レーザ計測"によってアジア航測株式会社が実施した.
図6 TerraSAR-Xによる時系列画像(約2ヵ月間隔)
3.SAR
3.1 SARとは
SARとは,Synthetic Aperture Radarの略であり,「合成開口レーダー」とよばれるレーダーの一種である.レーダーは一般に電波を照射し,その反射波を受信することにより,対象物の位置や形状を検出する装置である.レーダーはアンテナの口径が大きいほど分解能が向上する.SARは受信部(開口面アンテナ)を移動させ,複数箇所で計測し,そのデータを「合成」することで,大口径に相当する分解能を得る装置である.SARは自ら電波を送受信して対象物を計測するため,昼夜を問わず観測が可能である.また,マイクロ波と呼ばれる周波数帯の電波を用いるため,雲やある程度の雨を透過して地上の対象物を観測できることなどが大きな特徴である.また,搭載されるプラットフォームにより,大きく衛星搭載型,航空機搭載型,地上搭載型に分類される.
衛星搭載型SARは,1970年代にアメリカで実現され,我が国では1992年に「ふよう1号」,2006年に「だいち」が打ち上げられ,現在は2014年5月に打ち上げられた「だいち2号」が運用されている.
衛星SARの技術は,1990年代から2000年代にかけて飛躍的に発展し画像分解能の向上,観測幅の拡大,多偏波での観測が可能になった.
3.2 SARによるセンシングの特徴
ここでは,人工衛星搭載型(地球観測衛星)によるSAR観測および観測データの解析手法の特徴について説明する.SARで観測されるデータは,対象物で反射・散乱し,SARに返ってくる電波の強さと位相情報である.電波の強さを画像化したものをここでは「強度画像」と呼ぶが,同じ地域を対象とした複数時期の強度画像があれば,それらの強度の違いを比較することによって,観測期間内に発生した変化を捉えることができる.例えば,台風や津波などにより浸水被害が発生した場合を想定すると,水面から返ってくる電波は弱いため,災害前後に観測された強度画像を用いてその浸水エリアを検出することができる.また,位相情報は対象物の距離によって変化するため,地震や地盤沈下による地盤変動の検出に利用されており,その解析手法は干渉SAR(SAR Interferometry)と呼ばれている.さらに,電波(電界)の振動方向に着目した偏波情報からは,対象物に特有の散乱メカニズムを推定することが可能であり,土地被覆の把握などに利用できる.
図7 TerraSAR-X画像から読取れる地質学的特徴
(2015年2月27日取得画像)
3.3 SARの運用実績
わが社では,2007年よりドイツの衛星SAR(TerraSAR-X)をはじめとする複数の衛星SARにより,国内外の観測を行っている.災害時にはその観測成果をウェブ上で公開し,また関係各機関への情報提供を行っている.2013年12月からは小笠原諸島・西之島周辺の観測を継続的に行っている.このような継続観測も衛星SARの特徴を活用したものであり,他の手法では難しい.
3.4 SARの地質学応用への事例
実際にSARにより画像を取得した事例について西之島のケースについて紹介する.
西之島は東京の南約1,000 kmに位置する火山島である.西之島は海底からの比高約4,000 mの巨大な成層火山で,海面上に現れているのは火山体の極一部の山頂部である.2013年に西之島の南南東海面下にできた新たな火口から激しい噴火活動が始まり,新しくできた西之島新島による火山噴出物によって西之島と合体し,新しい西之島が形成された.その後火山活動によって成長を続け,現在は新火口が火砕丘となって聳え,噴煙や溶岩流を活発に噴出している.
2013年12月3日から2015年2月27日までの約2ヵ月ごとの時系列画像を図6に,地質学的判読例を図7に示す.図6から2014年2月7日画像以降,火口が大きく変化していることがわかり,西之島の成長に併せるように2014年6月8日画像からは島の東側へ,また10月18日画像からは島の北側へと溶岩流が大きく広がりながら島の拡大が続いたことを読取ることができる.
図7からは,溶岩流の流れ方や溶岩堤防(画像中くねくねする黒い筋に沿って両側に白く見えるのが溶岩堤防)の様子,溶岩流末端部への変化の仕方,火砕丘の東側へ広がった台地状に見える溶岩流などを読取ることができる.国土地理院の3月17日報道発表資料によると,3月1日にUAVにより観測されたデータから西之島の面積は約2.55 km2,火砕丘の最高標高点は約137 mに達したとされる.
4.むすび
テクノロジーの急速な進歩によって今までにない地上の情報が得られ,解析されている.しかし,解析技術にあった知の蓄積がまだ追いついていない状況にあるのも現実である.今後も技術革新はますます進むであろうが,知の革新にも期待したい.