1.はじめに
福島県の森林面積は,97万5,000haで県土の約71%を占める森林県です。本県は,平成23年に発生した東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故の影響により,山菜・きのこの出荷制限や森林整備が停滞するなど,林業活動に大きな影響を受けております。こうした状況の中で,県内の森林を再生させるため,放射性物質対策と森林整備を一体的に実施するふくしま森林再生事業に取り組んでいます。
ふくしま森林再生事業は,放射性物質の影響を受けた森林を中心に,県や市町村等の公的主体が,放射性物質の影響低減,拡散抑制を図ることを目的として,間伐等の森林整備とともに路網整備を実施しています。しかし,当初より懸念されていた森林所有者の特定作業に,多大な時間と労力を要しており,こうした状況の改善を図るために,平成25年度より法務局から提供を受けた登記情報(法務省地図XMLデータ・登記事項要約書データ)を,福島県森林地理情報システム(森林GIS)・森林簿データベースシステムに導入し,受託者である株式会社パスコとともに,森林所有者の特定を行いやすくするためのデータ整備を行っておりますので,その取り組みについて紹介します。
2.地番図データと登記簿データベースの整備
福島県は,森林法(昭和26年法律第249号)第191条の2第2項に基づき,法務局から法務省地図XMLデータと登記事項要約書データ(以下「登記簿CSVデータ」)の2種類の登記情報の提供を受け,法務省地図XMLデータから地番境界を示す地図データ(以下「地番図データ」)を,登記簿CSVデータからは,登記簿データベースをそれぞれ整備しました。森林がない湯川村を除く県下の市町村を対象とし,平成25年度から平成27年度までに,県全域の地番図データと登記簿データベースを整備し,また平成28年度は,福島県浜通りの13市町村を対象として,登記簿のデータ更新を行っています。
法務省地図XMLデータには,あらかじめ地理座標を持つデータとして整備された法務省地図XMLデータ(以下「公共座標XML」)と,地理座標を持たない法務省地図XMLデータ(以下「任意座標XML」)の2種類のXMLデータがあります。福島県では,平成25年度に実施した事業の中で,公共座標XMLと任意座標XMLの2種類のXMLデータを変換して活用方法を検討し,平成26年度からは,すぐに活用可能な公共座標XMLのみを変換対象として,3カ年をかけて,県全域の地番図データを整備しました。
3.森林簿情報と登記簿情報の並列表示
当初,登記情報のデータ整備を進めるにあたり,地理座標を持たない任意座標XMLの範囲の対応は,本事業の大きな課題でした。公共座標XMLの整備範囲は,地番図データと登記簿データベースとを地番情報で結合することにより,登記簿情報を結合した地番図データ(以下「登記簿地番図」)が作成され,森林GISを用いて森林計画図と登記簿地番図を重ね合わせることによって,森林計画図の一筆に対応する登記簿情報を確認することが可能になります。一方で,任意座標XMLの範囲は,森林計画図と登記簿地番図が重ならないため,登記情報の確認を行うことが困難になります。そこで,登記簿データベースについては,県全域の登記簿情報として有効であることに着目し,森林簿の代表地番に対して登記簿の地番を結合するために,図-1に示すような,それぞれの大字小字を関連付ける対応表を作成することで,森林計画図と森林簿及び登記簿を結合し,任意座標XMLの範囲を補填することにしました。
森林簿の代表地番と登記簿の地番を結合することで,地上権者を示す森林簿の森林所有者と,土地の所有権者を示す登記簿の土地所有者を並列表示させ,森林所有者と土地所有者を比較しながら確認作業を進めることが可能になります。さらに並列表示させた森林簿を,森林計画図と結合することで,任意座標XMLの範囲についても,空間的に登記簿情報を参照することが可能な森林計画図(以下「登記簿計画図」)を整備することができます。特に国土調査の進捗率が低い市町村は,登記簿地番図の整備率も低くなるため,登記簿情報を結合した登記簿計画図を整備することで,表-1や図-2に示すとおり,森林GISを用いて森林計画図と重ね合わせて登記簿情報を参照することが可能な範囲を拡大することができました。
図-1 森林簿の代表地番と登記簿の地番を結合するために作成した対応表
表-1 登記情報の整備状況
※国土調査の進捗率は、平成27年度末時点の情報
出典:福島県(2015)「地域森林計画書」,〈https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/36055a/chiikishinrinkeikaku.html〉2016年12月アクセス
国土交通省(2016)「地籍調査状況マップ~地籍調査はどこまで進んでいるの?~」,〈http://www.chiseki.go.jp/map/07. php〉2017年1月アクセス
図-2 登記簿地番図と登記簿計画図の整備範囲の比較
4.森林計画図・森林簿の地番情報の精度向上
登記簿計画図を整備することにより,森林計画図の森林域について,一定の整備率を望める空間データを作成することができます。しかし,森林簿に結合される登記簿情報は,森林簿の代表地番に結合しているため,森林簿の代表地番の精度によっては,誤った登記簿情報が結合されてしまう可能性もあります。また,森林簿と登記簿との結合の際に未結合となった情報や,さらには森林計画図と森林簿にも未結合の情報があるなどの課題が残ります。図-3に示したとおり,登記簿地番図の整備率が高い市町村においては,森林計画図との空間的な位置関係を分析することにより,森林計画図および森林簿の代表地番の精度を向上させ,登記簿計画図の整備率もあわせて向上させられると考えました。
このような背景から,本事業において整備した登記簿地番図と森林計画図とを重ね合わせて解析(オーバーレイ解析)することにより,図-3に示したような,森林計画図の一筆と対応する登記簿地番図の地番情報との空間的な関係を示す空間データベースを作成し,膨大なデータベースを解析して代表地番を導出することにより,対応する森林簿の代表地番を更新することで,森林簿の代表地番情報の精度向上を図りました。表-2に示したとおり,登記簿地番図と森林計画図が重なる,43.3%の区域に対して代表地番を導出するための分析を行い,森林計画図の一筆に対して,代表地番として十分な面積を持つ地番を抽出し,更新が必要と判断された地番のみを更新しました。
この代表地番の更新作業により,約59万件の代表地番について地番が正しいかどうかの評価を行い,そのうちの26.4%となる,約15万6,000件に対し,地番更新を行いました。また更新されなかった73.6%の地番は,代表地番として正しいと評価され,更新の必要がないこともわかりました。
図-3 森林計画図と登記簿地番図によりオーバーレイ解析のイメージ
表-2 登記簿地番図と森林計画図の重ね合わせによる森林簿の代表地番更新件数
5.おわりに ~今後の展望~
平成28年5月の森林法改正(昭和26年法律第249号の一部改正)において,市町村は,地域森林計画の対象となっている民有林に対して,その森林の土地の所有者や,その所在,地番,地目等を記載した林地台帳を作成し,管理していくこととされ,福島県でも,この改正森林法に対応し,本稿において紹介した登記情報を林地台帳の適正な運用のための基礎的資産として位置づけ,登記情報の活用について検討を進めています。
福島県が所管する森林計画図は,もともと地番境界を考慮した単位で作成されており,法務局地図XMLデータから作成した地番図と重ねると,多少のずれは確認されますが,概ね形状が一致します(図-4)。この状況から,平成28年度より,地番図の整備率が高い市町村を対象とし,森林計画図の境界を,地番図の境界によって更新する作業を進めています。また,任意座標XMLの取り扱いについても検討を進めており,本稿において紹介した登記簿計画図を活用し,登記簿計画図の代表地番の位置情報により,任意座標XMLから作成した登記簿地番図の効率的な仮配置等を行う方法についても検討を進めています(図-5)。各市町村が林地台帳管理の準備を進める中で,県としては,県の所管する森林情報の精度向上を図ることで,平成31年の林地台帳の運用開始のための準備を進めていく予定です。
図-4 森林GISに搭載した森林計画図と登記簿地番図の形状の比較
図-5 任意座標XMLから作成した登記簿地番図の仮配置手法の検討
参考URL等
福島県(2015)「地域森林計画書」,〈https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/36055a/chiikishinrinkeikaku.html〉2016年12月アクセス
国土交通省(2016)「地籍調査状況マップ~地籍調査はどこまで進んでいるの?~」,〈http://www.chiseki.go.jp/map/07.php〉2017年1月アクセス