大規模災害における状況把握
- 衛星活用の実態と今後 -
株式会社パスコ 経営戦略本部 災害対策部長
下村 博之
近年、気候変動に伴う自然災害が頻発し、激甚化の一途にあります。リモートセンシング技術を使って災害現場の迅速な状況把握、復旧・復興に役立てていただくことが、専門技術を持つ私たちの使命だと考えています。広域災害発生時に、人工衛星や航空機を駆使した災害緊急撮影を指揮する下村が語ります。
衛星データは、日本国内に留まらず、全世界の変化を客観的に把握することで、データに基づいた政策や企業戦略を支援することを可能にします。2008年に施行(2015年改正)された「宇宙基本法」では、宇宙開発利用に関する基本理念、基本的施策、宇宙基本計画などに関する事項が定められ、国を挙げて宇宙開発ならびに利用を推進しています。
内閣府でも2020年に「宇宙基本計画」を改訂し、宇宙計画の推進を強化するとされ、国や自治体での衛星データ活用を推進するとともに、「宇宙を推進力とする経済成長とイノベーションの実現」が目標の一つに掲げられました。
パスコは、2005年から地球観測衛星の利活用を促進するビジネスを本格化しています。これまで、国内外の人工衛星の運用・データ流通・加工/解析・ソリューション提供などを実践してきました。これらの実績とノウハウを生かし、期待が高まる衛星データの活用を、皆様にもっと身近に感じていただけるよう、より手軽に使いやすいソリューションの創出に努めてまいります。
2017年度に施行された改正森林法により、森林所有者は伐採・造林届に加え、再造林後の状況報告も義務化されました。これにより自治体は、状況報告書の記載内容と伐採造林届および各種計画との照合や現地確認が必要となり、それに係る手間やコストの簡略化と届出制度の継続的な運用の実現が課題となっています。
パスコの「衛星を活用した森林変化情報提供サービス」は、森林の健全な育成と産業振興を進める自治体の業務負担の解消を目指し、森林の変化状況を的確に把握するため、衛星画像とAI判読技術を用いた変化情報を提供するサービスです。
地域農業の活性化のためには、耕作放棄地、遊休農地など、農地の利用状況を把握する必要があります。
本サービスでは、利用状況調査の効率化を支援するために、光学衛星で撮影した画像(地上解像度 1.5m)と農地地番図の2つの情報を重ね合わせて、農地パトロール(現地調査)の基礎資料と図面を提供します。
植生は、近赤外線の波長を強く反射する特性を持つため、例えば、図のように近赤外線を表現したマップを作成し、複数時期の画像を比較することで耕作放棄地や遊休農地の可能性がある箇所の検出が可能です。図は水田を撮影し近赤外線の反射が強い植生繁茂部分を赤色で表現しているため、耕作前の4月の画像(上図)では赤色の部分は少なく、出穂期の7月の画像(下図)では多くなっています。
合成開口レーダー(SAR)衛星で観測したデータを基に、地盤の変動が生じた「エリア」と「傾向」をメッシュや等高線表示で可視化するモニタリングサービスを提供しています。
本サービスは、埋立地のほか、空港、ガスなどの貯蔵施設、発電所などの大規模施設やその周辺、地下鉄、トンネルなどの地下工事に伴う地盤沈下の計測手法として活用いただいています。
この手法により、工事現場を平面的にモニタリングすることが可能です。衛星は広範囲に及ぶ地盤変動を定期的に「面」で捉えるため、従来の地上に測量機器を設置して「点」で沈下量を計測する手法を補うことが可能です。
合成開口レーダー(SAR)衛星画像にAI技術(深層学習/ディープラーニング)を適用することにより土地被覆分類マップを自動生成します。異なる二時期の土地被覆分類マップの差分から、都市の変化状況を抽出し、土地被覆変化マップを生成します。
抽出する土地被覆分類は、「人工物」「裸地」「水域」「草地」「森林/樹木」に大別されます。また、それぞれの状況を地図表現するほか、面積の推定や複数時期の変化過程から都市化や森林減少の速度も推計できます。
太陽を光源として地球上を撮像する光学衛星は、一般の方でも視覚的に分かりやすいフルカラー情報が得られます。
搭載されているセンサーの種類により、数十cmの分解能(解像度)を持つ衛星や一度に広範囲を撮影可能な衛星など、使用目的によって使い分けることができます。以下、パスコが取り扱い可能な代表的な衛星をご紹介します。
合成開口レーダー(SAR)衛星は、電波の反射情報から地表面を観測します。このため、天候の影響を受けにくく、悪天候時や夜間においても地表面の情報を取得できます。パスコでは、Lバンド、Cバンド、Xバンドと3つのバンドの合成開口レーダー(SAR)画像を取り扱っています。
パスコが取り扱い可能な代表的な衛星をご紹介します。
パスコでは、衛星画像の解析にAI技術を実装する研究開発に、2014年から取り組んでいます。
そして、2018年6月に、アメリカ合衆国ユタ州ソルトレークシティで開催された世界で最も権威のあるコンピュータビジョンと画像認識の国際会議のDeepGlobe Satelliteチャレンジ(国際コンペ)では、建物抽出部門で、パスコの衛星事業部のチームが、独自の深層学習によるAI技術で、建物の最高認識率を達成し、優勝しました。
大型店舗や港湾での駐車台数は、売上などの経済指数と関係があります。本解析は、高分解能光学衛星で撮影した駐車場の画像から、AIに車両の形状を学習させることで、駐車車両の台数を推定する手法です。
パスコは、航空レーザ計測を用いた資源量調査や効率的な意向調査、森林経営計画をはじめとする各種計画の策定から、「スマート林業」実現に向けたICT等の導入・運用支援まで新たな森林管理システムの実現に向け、自治体、林業事業体等における各種業務を支援します。
その中で、パスコは衛星画像や航空写真からAI技術を用いて、樹種の特定を行う技術を活用しています。
パスコの衛星ビジネスは、2005年から着手、2007年から本格化しています。開始当初は、入手が困難とされていた衛星データを身近で有効な情報として活用してもらうため、衛星データの普及と利活用促進に努めました。並行して、衛星データの活用方法を社会に提案することを目指し、衛星データの分析・解析手法の研究開発を重ね、現在では、衛星データを活用したソリューションを創り出し、社会の課題解決に努めています。パスコは衛星データの活用を通じSDGsの達成に貢献していきます。