【雑誌掲載記事】土木学会誌 第101巻 第2号

空間情報分野(測量)での日本技術の優位点
─日本の優れたプロジェクト管理技術─

(土木学会誌2月号「公益社団法人土木学会2016年2月発行」:国際協力の現場で光る日本の知恵と技 ─海外での土木技術者の挑戦─)
※ 本記事は、公益社団法人土木学会の承認のもと転載しています。

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海外勤務にあこがれて

1985年横浜国立大学土木工学科を卒業後、海外で働ける可能性のある会社として航空写真測量を主業務とする(株)パスコに入社した。パスコに入り初めて写真測量を知り、学びながら仕事を始めた。写真測量の中心理論は中心投影による射影変換にあり、写真上に写っている連続体(地形や構造物)をトレースすることで地図を作成することができる。この技術は変換パラメータの決定に位置情報の精度が左右されるのと、トレースされた地形や構造物が地図としての体裁(表現)を得るまでの品質管理が最も重要である。日本国内においては、国土地理院の指導の下にこれらの品質管理がよく確立しており、大量生産の中にあっても、品質が保たれ地図データが作成されている。

日本とASEAN の地図事情の違い

海外で仕事をしたいと考えながらも20年間は日本国内において地形図作成の管理技術者を務め、2005年になってようやく海外事業部へと異動することができた。その後2006年から2010年は、タイのバンコクにある子会社に出向し、責任者として子会社の技術育成とタイ国内での市場拡大を目指した。2011年1月から2014年7月までは、円借款による「インドネシア国土空間データ基盤整備事業(NSDIプロジェクト)」に従事し、2014年8月からは、フィリピンマニラの子会社に席をおき、フィリピンのマッピングやGIS構築に力を注いでいるところである。ASEANの国々を見て感じたのは、日本のプロジェクト管理(スケジュール、品質、コスト管理)が、非常に優れているという点である。また、日本においては初等教育から地図を取り入れた教育を行うため、大抵の大人は地図を読むことができるが、ASEANにおいてはこの地図教育が不十分なためか、これができていない。このため、初等教育によって素養を持った日本人が測量および空間情報の専門分野に進んだ際に、非常に有利な状況にある。

効果の大きかった日本のプロジェクト管理

インドネシアNSDIプロジェクトでは、3年半という短期間の中で30万3439km2という膨大な空間情報を作成したが、このプロジェクトではインドネシア国内にいる写真測量技術者を集めて行わなければならないという制約があった。このため延べ500人にも上るインドネシア人技術者を各作成工程に振り分けて、プロジェクト管理を行わなければならなかった。地元企業の技術者は日本の技術者と比べて技術力が乏しく、加えて経験年数もわずか3年程度の者が多いため、技術者自身が工数を予測することができなかった。
このため、プロジェクト管理においては「日々管理」のシステムを導入し、技術者が行った作業量をその日のうちに収集し、全体の作業工数を把握するようにした。これにより毎日の作業進捗が目に見え、1週間単位でこれを解析すると、各人の能力の差も明確になり、指導をピンポイントで行うことができるようになった。このようなきめ細かなプロジェクト管理については顧客であったインドネシア空間情報庁(略称:BIG)からも高い評価を受けた。


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